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来賓室 

 

福島県三春町、農地の一画にそびえる「滝桜(瀧桜)」

樹齢は1千年以上といわれ、地域の人々は代々この木を守ってきた

 

 

 

 

2013(平成26)年の2月末、福島県三春町から「滝桜」の苗木がブータンに初めて贈られました。

その1年後の2014年2月にはふたたび、滝桜の苗木がこのヒマラヤの王国の首都ティンプー郊外で植樹され、

今年、2016年の3月3日にはブータンで第3回の滝桜の植樹式が挙行されました。

最初の時も今年の3回目の植樹式も、ブータン国営放送BBSテレビは夜のニュースで伝え、日刊新聞の「クエンセル」も翌朝、記事と写真を掲載しました。

 

三春町民が昔から大切にし、誇りとしてきた滝桜の子孫樹が、どうして何度もブータンの地で植樹されているのでしょうか?

 

    

 2016年3月3日に行われた第3回の滝桜植樹式(ティンプー市郊外のデチェンチョリンで)

 

 

鎮魂の祈りを捧げたブータン国王  

東日本大震災の8ヵ月後の2011年11月に震災後はじめての国賓として来日したブータンのジグメ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王は、

日本訪問の日程に被災地慰問を含むことを自ら強く希望されました。 

        

 東京・迎賓館での歓迎行事

 

 講道館御来館

講道館をご訪問、若い柔道家たちと歓談される国王ご夫妻

 

国王陛下は皇居での歓迎式典、国会での演説や市民との交流など東京での公式行事を済ませると、来日4日目の11月18日、福島県相馬市を訪れました。

そして、当時31歳の若々しい国王はひと月前に挙式したばかりのジェツン・ペマ王妃と並び、津波で多くの犠牲者が出た原釜地区の海辺に立って頭を垂れると、

ブータンから同行した僧侶たちの読経が流れる中、長い鎮魂の祈りを捧げたのでした。

ブータン国王一行の真摯な慰霊の姿をテレビで見て、感動に涙をこらえきれなかった人も多かったのではないでしょうか。

 

     

2011年11月18日、相馬市原釜地区の海岸で津波犠牲者へ鎮魂の祈りを捧げるブータン国王の一行    福島民報

 

福島県の中央、太平洋岸から40キロ以上内陸に位置する三春町は、津波や原発事故の被害を直接は受けなかったものの、

太平洋岸の町村から多くの避難民を町内の仮設住宅に迎え、また原発事故の後のいわゆる風評被害による農業・畜産業への悪影響は甚大なものでした。

三春といえば、樹齢推定1,000年以上で国の天然記念物第1号でもある、枝垂れ桜の大木「滝桜」が全国に知られます。

町内には他にも樹齢数百年級の桜の巨木が何本もあり、またこの30年間に植樹を続けた桜の総数はざっと1万本。

毎年4月には町の人口1万7千人の数十倍の観桜客が押し寄せる、全国的な花の名所のひとつです。

 

その三春町に、ブータン国王による福島への慰問に強く心をゆさぶられ、こう考えた人たちがいました

「国王陛下とブータン国民にお礼の気持ちを込め、滝桜の子孫樹をお贈りできないか」

「あの大震災からひと月後の2011年4月、例年と変わらぬ様子で花を開いた滝桜に、私たちの心がどれほど励まされ力づけられたかを、

是非ブータンの人たちに伝えたい・・・」

 

 著作権・風の旅行社

首都ティンプーにあるブータン伝統の城郭建築、タシチョゾン

ここに政府庁舎と中央僧院、そして国王の執務室もある

 

それら三春町民の有志が、つてをたどって日本ブータン友好協会の関係者などに相談したことから、2013年2月に親善植樹団のブータン初訪問が実現しました。

鈴木義孝町長を団長とする8人の親善訪問団は、滝桜のタネから育てた10本の苗木を持って、ブータンの玄関口である標高2,400mにあるパロ空港に着陸しました。

そして、空港から60キロの山道を揺られて首都ティンプーのホテルに到着したところ・・・

 

突然、国王陛下との謁見が  

・・・思いがけなく「すぐにタシチョゾンに来るように」という伝言が待っていました。

タシチョゾンとは政府の事務所や中央僧院、そして国王執務室も置かれた伝統的なブータン様式の城郭です。

ブータン側で親善訪問の受入れ手続きを担当した農林省の首脳が、前もって福島からの来訪者についてご説明したところ、

大変に興味をもたれた国王陛下が直々にお招きになったのです。

 

予想もしなかった国王陛下との謁見の場で緊張に固まる三春町の一行に、国王は笑顔で語りかけました。

 

「よく来てくれました、本当にありがとう。実は私は以前から、ブータンでも国中に桜の木をたくさん植え、育てたいと思っていたのです!」

 

タシチョゾンで国王陛下にお会いした三春町の親善訪問団(2013年2月)

 

  

三春町からブータンへの滝桜献樹親善訪問を伝える「福島民報」(左)と「福島民友」(右)

 

2008年頃からブータンでは経済発展に弾みがついてきました。特に首都のティンプー谷の建設ラッシュは目に余るほどで、時には町中が埃っぽく見えるほどです。

バランスのとれた都市計画を実行し、公園や緑地の整備などを積極的に進めなければ、

ブータンが自慢とする美しい自然が首都のティンプーからは失われてしまうかもしれないと、留学経験から欧米の美しい都市計画をよく知る国王陛下は危機感を持っていたのです。

その国王がおっしゃる「桜の並木を国中に」というのは、日本の歴史や風土にも関心を持たれていた陛下が緑化のシンボルとして心に描く、

ひとつの「理想の風景」だったのでしょう。

 

    

ティンプー市の中心部                        建設ラッシュの新市街

 

 

滝桜の写真を贈られた国王は、その樹齢が推定1,000年以上と聞かされ、

またその巨大さを見て「古い樹木には魂が宿るといわれますが、本当にこの木は・・・」と驚き、絶句したそうです。

鈴木町長が滝桜の苗木を1本国王陛下に献上して、「私たちは、これからもお礼の植樹を続けたいと思います」と申し上げると、

国王は「是非そのようになさってください。そしてこれから私たちが桜を育てていくのを手伝ってもらえますか」とお答えになりました。

この日、国王に献上された苗木は今、タシチョゾンに隣接する御所「リンカナ宮殿」の庭で、元気な若木になっているということです。

2013年の2月から3月にティンプーで植樹された滝桜の子孫樹は、5年目の2017年ごろから、

成長の早い木からぼちぼち花をつけるようになることが予想され、ブータンの人たちは楽しみに待っています。

 

第2回親善訪問団には三春町民の皆さんも参加した(2014年2月)

 

1年後の2014年2月にブータンを訪れた第2回目の三春町親善訪問団は、30本の滝桜苗木と100粒ほどのタネを持参。

苗木は国王陛下の命令でティンプー郊外に整備されたばかりの、花卉園芸と育苗・造園の技術研修センターの広い敷地内に植樹され、

鉢に蒔かれたタネはその後3割ほどが発芽して育っているそうです。

 

「ブータンには花木や造園の専門家がいない」  

その頃、ブータン農林省の担当者から三春町に対してこんな相談が持ちかけられました。

「実は日本からはこれまでも、ブータンにいろいろな種類の桜の苗木を贈ってくださる団体や個人があって、

ありがたく頂戴して植樹するのだが大きく育てるのが難しく、若木のうちに病気で死んでしまうものも少なくない。

ブータンには桜など花木の知識や本格的な造園技術を学んだ専門家がほとんどいないので、そういう人材の育成に力を貸してもらえないだろうか」

その要望にこたえるために三春町は日本ブータン友好協会の関係者らと相談を重ねました。

そして、JICA(国際協力機構)の「草の根技術協力」というODA(政府開発援助)予算の公募に申し込んだところ、幸運にも2014年の夏に採択され、

「2014年11月から17年3月までの期間、ブータンで花木専門家や造園技術者の人材育成に協力する」という事業を立ち上げることができたのです。

 

        

苗木の正しい育て方や病害虫の防ぎ方を、三春からの派遣専門家が、実地研修でブータン人の技術者と共に学ぶ(ティンプー市郊外で)

JICA草の根技術協力(地域活性化特別枠)事業概要  

2016年2月末現地訪問の専門家による簡単な報告

 

ふたりの若いブータン人研修生は、2015年夏に福島県に滞在して現場体験を積んだ

 

2015年には2グループの専門家をブータンに派遣して花卉園芸の技術を伝授する一方、

若手のブータン人園芸技術者2名をひと月間、福島を含む日本の各地での現場研修に招聘するプログラムも実現しました。

 

三春とブータンで花卉園芸の実地研修  

2016年にも三春とブータンの間で人の交流が予定されていますが、まず2月末から3月にかけては特に病害虫被害の予防についての現場研修を目的に、

2人の種苗・造園専門家がティンプーを訪れてブータン側から大いに歓迎されました。

初夏にはまた、2人のブータン人研修生が福島での現場体験のために1ヵ月ほど来日することになっています。

三春の花卉園芸専門家らとJICAプロジェクトの事務局では、ブータン農林省の担当者たちと相談して、この共同事業をどのように将来につなげるかという構想を立てました。

それは、今回のプロジェクトが終了する2017年3月までに、ティンプー市の郊外に日本式庭園の「三春ガーデン」を作り、

三春町内にはブータンの自然環境をイメージした「ブータン・ガーデン」を設営する、というものです。

その過程で、花卉園芸と造園技術を学ぶブータン人の専門家たちがさまざまな実地経験を積み、「日本人の自然観と庭作り」の伝統に少しでも多く触れてもらうのが目的です。

また2016年の5月には、パロのウゲン・ペルリ宮殿に隣接する広大な敷地で開催される「ブータン花の博覧会(Royal Bhutan Flower Exhibition 2016)」に、

このJICAプロジェクトを通して三春や福島の専門家が参加、仮設の日本式庭園と「あずまや」で華道や茶道、盆栽づくりのデモンストレーションをする計画も進んでいます。

三春滝桜が結んだ草の根技術協力の関係はまだ始まったばかりですが、今後ブータンの都市緑化を担う人材を育てることに寄与して、

10年後、20年後にはティンプーをはじめ国中で公園や緑地の整備が大幅に進むことを、両国の関係者は期待しています。

 

ちょうど2016年は、1986年に日本とブータンの間に正式な外交関係が樹立されてから30周年という記念の年にあたります。

3月3日の記念植樹は日本外務省から「30周年記念事業」と認定され、ブータン農林省が主催して正式な記念式典として挙行されました。

今回ブータンに献樹されたのは、三春町の桜守が滝桜のタネから丹精込めて育てた苗木12本と、2015年の初夏に三春町の小学生たちが拾い集めた滝桜のタネ30粒ほど。

苗木のうち3本が記念植樹され、それぞれの横には「外交関係樹立30周年」を記念するプレートが設置されて、

三春町とブータンの友好関係がどのように始まったかということも英語で説明しています。

 

        

2016年3月3日に植樹された滝桜の苗木の横には、「外交関係30周年記念」のプレートが設置されて、三春町とブータンの友好関係についての説明も

 

王子様のお誕生祝いは・・・  

ところで、2016年2〜3月の三春町親善訪問団は、滝桜の苗木とタネの他に、もうひとつ「三春自慢」の品物をブータンに持って行きました。

昔、名馬の産地として知られていた三春ならではの民芸品として全国に知られる「三春駒」を、

2016年2月5日に国王夫妻に生まれた、第1子の男児へのお誕生祝いとして王室にお贈りしたのです。

高さ30センチほどの黒白ペアの三春駒につけた英文のカードに

「伝統的な縁起物として、黒い馬には安産と新生児の健康を願う意味があり、白い馬には長寿の祈りが込められている」と来歴をご説明したところ、

両陛下とも大変お喜びだったと、一行は王室関係者から伝えられたのでした。

この赤ちゃんが少年皇太子になる数年後には、滝桜の子孫樹もブータンに根を下ろして立派な枝垂れ桜に育ち、

その満開の花の下を元気に走る皇太子殿下の姿が見られるかもしれません。

 

       

三春駒                  御所リンカナ宮殿の庭で、生後10日ほどの男の赤ちゃんを抱く国王ご夫妻(2016年2月)

 

(筆者:日本ブータン友好協会理事 弓削康史)

 

 

 

 

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来賓室

2016年3月16日掲載: 日本ブータン友好協会理事 弓削康史さんの  ティンプ−で育つ三春 滝桜の子孫樹たち 樹齢千年の巨木がつなぎ育てる、福島とブータンの友好関係    

2014年7月掲載開始: JOCV 堀内隊員の「柔道通信」       2010年掲載開始: itobaa さんのブータンの花カレンダー    

給食おばさんの 「ブータンからのデムショーク(葉書)」    音楽教師・間庭真梨子さんの 「寝ても覚めてもブータン」     矢内由美子さんのブータン・ダイアリー 2013年 2010年 〜 2012年 

平山修一さんの「ブータン便り」 掲載終了のお知らせ    片山理絵さんの マオンパ・ニュース     高田忠典さんの ブータン・メンカン(病院)便り  

  

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